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4. からくり人形

مؤلف: 霞花怜
last update تاريخ النشر: 2025-06-06 20:00:27

 蒼が起きたのは昼だったらしい。

 他の子たちは済ませたからと、蒼にだけ別の昼餉が用意された。

 広い和室の一角に洋風なテーブルが置かれていた。

「最近の現世の子はテーブルの方が楽みたいだから、揃えたんだ。正座とか慣れてないみたいだから。蒼もテーブルの方が楽? 畳の方が良ければ、座って膳でもいいよ」

 食事する場所を選ぶなんて経験は、今までにない。

 与えられた環境で、何より食えれば何でもよかった。

「テーブルで、大丈夫です」

 目の前に並んだ豪華な食事に、蒼は唖然とした。

 天ぷらや刺身、煮つけなど、食べきれないほどの量だ。

「とりあえず和食にしたけど、蒼は好物とかある? 栄養が偏らない程度になら、好きな食べ物を出すから、教えてね」

 膳を前に呆然とする蒼を眺めて、紅が笑った。

「理研からくる子たちは、大体みんな、最初はそういう反応するんだよね。量が多すぎるとかだったら減らすけど、蒼も育ち盛りだから、それくらいは食べられるよね」

 膳を眺め、紅の話を聞いて、ひらめいた。

(僕たちは餌だから、肥え太らせた方が美味いのか。魂とか霊元も食った方が育つのかな)

 何となく納得して、箸を持ち、手を合わせた。

「い、いただきます」

「召し上がれ」

 紅が蒼を眺めているのが居心地が悪いが、とりあえず天ぷらに箸を伸ばした。

 箸で持って重いと感じるようなエビの天ぷらなんか、人生で初めて出会った。

 天つゆに浸して、ぱくりと頬張る。

 噛むたびにぷりぷりした触感が歯を押し返してきて、驚いた。

 蒼の顔を眺める紅が、満足そうに笑んだ。

「美味しい?」

 何度も頷いて、蒼は膳にがっついた。

 エビを一口、食べて以降は箸が止まらず、気が付いたら全部平らげていた。

「ごちそうさまでした……」

 あまりの美味しさに食べ終わった後も感動が収まらない。

「足りなかったかな。もう一人分くらい食べられそうだね」

 蒼は、ブルブルと首を振った。

「そんな贅沢、覚えたら……。前の暮らしに戻れなくなる」

 理研では栄養失調にならないギリギリの食事しか与えられていなかった。

 金もほとんど持っていなかったから、買い食いの経験もない。

「もう戻らないから、いいんだよ。蒼は一生、俺と一緒に暮らすんだから。この程度、贅沢じゃないよ。遠慮しないで食べたいモノ、教えてよ」

 はっと気が付いて、胸に広がった感動が、さぁっと冷めた。

(そっ、か……。一生、か。僕は遠くない未来に紅様に喰われるんだから、ここが終の棲家なんだ)

 さっきの紅の話なら一月前後だろうが、蒼はもう少し長いと言われた。

(長いと言っても年単位じゃないだろうし、残り少ない人生で良い思いさせてあげよう的な感じかな)

 恐らくこの妖怪は、そう悪者でもなのだろう。

 可哀想な子供たちを引き取って最期に良い思いをさせて、喰う。

(そういう昔話、なかったっけ? まさか現実にあるとは思わなかった。どうせ喰われて死ぬんなら、少しくらい我儘、言ってみてもいいかな)

 ちらりと顔を上げる。

 紅が笑んだまま首を傾げた。

「牛肉、食べたこと、なくて。ステーキ、とか、食べてみたい、です」

 リクエストもおねだりもしたことがないので、どういう言い回しが正しいのか、わからない。

 恥ずかしくて、顔が熱い。落ち着かなくて、ソワソワする。

「いいよ。じゃぁ、夕飯はお肉にしようか。芯もニコもお肉好きだから、きっと喜ぶよ」

 あっさり許可が出て、驚いてしまった。

 驚き過ぎて心臓がバクバクしている。

「他には何かある? 食事だけじゃなくていいよ。服は俺に合わせて皆、着物で来てくれるけど、窮屈なら洋服も用意するよ。あとは、部屋も一人一部屋で準備できるんだけど、理研の子たちは何故か同じ部屋を希望するんだよね。蒼は、どうしたい?」

 胸の奥がくすぐったくて、ソワソワした。

「どうしたい?」なんて、今まで聞かれたことがなかったから。

 からくり人形のように命令に従って生きてきた蒼には、ハードルが高すぎる。

 人生初のステーキおねだりなんかしてしまったばかりで、他の何かを要求できるメンタルはない。

「着物を着ます。同じ部屋でいいです」

 ぽそりと呟いた蒼に、紅が頷いた。

「うん、わかった。要望が出てきたら、教えてくれたらいいよ。実際に生活してみないと、わからないだろうからね」

 蒼は、そっと顔をあげた。

「紅様は、なんで、そんなに……親切、なんですか? 僕らは、餌でしょ? そこまでしなくても、理研の子供は逃げたり、しません。そうした方が、美味しくなるんですか?」

 正直、牢に監禁でもしておいた方が楽なんじゃないかと思う。

 紅が眉を下げて笑んだ。

「君たちが、可愛いから。確かに俺は最終的に君らを食べるけど、可愛いとも思ってるんだ。愛玩だと思えばいいよ。俺が好きでやってるだけだよ」

 その言葉は本音であって本音でない。そんな気がした。

「他の子と差を付けたくはないけど、蒼には俺を好きになってほしいから、余計に構うかもしれないかな」

 蒼の髪を指にくるりと巻きつけながら、紅が笑う。

「どうして、ですか?」

 紅が笑んだまま困った顔をした。

「俺は君らを喰うために、俺の一部を君らに流し込む。俺の一部になり始めると、体の一部が変化し始める。それと同時に、俺を好きで堪らなくなる」

 蒼は昨日の自分を思い返した。

 紅とキスして精液を飲んでから、愛しい気持ちが込み上げた。

「それが俺の妖術で、必要だからするんだけど。蒼には妖術じゃなく、俺を好きになってほしいよ」

 紅が蒼の頬を、するりと撫でた。

(命じてくれたら、そうする。妖術で操ってくれた方が、楽だ。けど、紅様は僕に本心から好きになってほしいんだ。どうしてなんだろう。僕は、ただの餌なのに)

 今更、逃げる気もない蒼にとって、紅の命令に逆らう気もない。

 理研より紅の元にいた方が、ずっと良い生活ができる。

 蒼は紅の手を、そっと握った。

「紅様を好きになれるように、努力します。この命は紅様のモノですから」

 紅がそう願うなら、それが命令だ。

 喰われるまでの間、可愛がってくれるなら、その気持ちには報いるべきだろう。

 出来れば喰う時は、痛くも苦しくもなく楽に喰いつくしてほしい。

 その願いはまた後日、伝えてみようと思った。

 紅が、少しだけ目を見開いた。

「そっか。蒼は、からくり人形なんだね。理研から来る子には、時々そういう子がいるけど、そうか。そこから直していかないと、いけないね」

 紅が困った笑みを浮かべている。

 その意味が、蒼にはわからなかった。

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  • 『からくり紅万華鏡』—餌として売られた先で溺愛された結果、この国の神様になりました—   105.一緒にお風呂①

     一先ず、大気津に会いに行くのが優先、ということで、この日はお開きになった。 ゆっくりはしていられないので、一日休んで出立になったのだが。 蒼愛と紅優だけで行かせる訳にはいかないと、神々の側仕が数名、付いてくれる運びになった。 全員は多いということで、誰が同行するかを話し合ったが決まらず、結果、じゃんけんしていた。(幽世にも、じゃんけん、あるんだ) などと思いつつ見守った結果、夜刀と吟呼、世流に決まった。 三人も多い気がするが、大蛇の襲撃を警戒しているのだろう。 宴を終えた蒼愛たちは、やっと家に帰れた。 家と言っても今日から瑞穂ノ宮が住まいになる訳だが。 広間や控えの間がある表から奥に進むと、日本家屋風の屋敷が現れた。「あ! あの家、紅優の御屋敷だ」 近付くにつれ、見慣れた屋根から家屋が顕わになった。「急に場所が変わると落ち着かないから、地上の家をそのまま持って来たんだ。宮の奥にも住める場所はあるから、引っ越しは徐々にね」 紅優が蒼愛に微笑みかける。 どうやって持ってきたのかわからないが、きっと妖術なんだろう。「僕も、元の家が良い。部屋もお風呂も、同じが良い」 この国に来て、最初に暮らした、思い出が詰まった家だ。 見上げると、紅優が笑顔で頷いてくれた。 自分の部屋に一人で戻り、畳の上にバタンと横になった。(やっと帰って来られた。久しぶりに帰ってきた気がする) 淤加美の所に挨拶に行ってから、ずっと神様の宮を廻って、水ノ宮に戻る日々だった。 そう長い期間ではなかったが、蒼愛としてはとても長く感じた。(自分の家に帰ってくるって、こういう気持ちなんだ。落ち着く……) 見慣れた部屋も匂いも家具も、総てが安心する。(いつの間にか、この家が僕の家になっていたんだ。紅優と僕の家だ) 嬉しくて、ちょっと照れ臭い。 安心してウトウトしていたら、足音が聞こえてきた。「蒼

  • 『からくり紅万華鏡』—餌として売られた先で溺愛された結果、この国の神様になりました—   104.真実を暴く目と裁きの力③

     日美子がずっと、須勢理の隣にいてくれるのが、蒼愛には安心できた。 きっと思うところはあるだろうが、敢えて話を聞く側に徹しているのは、須勢理の居場所がなくならないように気遣ってくれているのだろうと思った。 膝の上の野椎が、頭で蒼愛を突いた。 野椎を抱き上げると、頬擦りされた。 気持ちがいいので、もきゅもきゅしながら顔を埋める。「うふふ、モフモフだぁ」 野椎を抱きながら顔をグリグリしていたら、皆の視線を感じた。「あ……、ごめんなさい。気持ち良かったから、つい」 真面目な話をしている最中なのに野椎のモフモフに癒されてしまった。 淤加美が、我慢できないといった具合に吹き出した。「構わないよ。私たちは蒼愛の笑顔に癒されるからね」「蒼愛はそれくらいでいいんだよ。深刻に受け止めると気後れするだろ」 月詠見に振られて、考えた。「皆様の期待に応えるだけの力が、今の僕にあるのか、よくわからないけど。何となく、野椎の、伽耶乃様の中にある色彩の宝石が、僕の力を引き出してくれている気がするんです」 祭祀の時も、野椎が顔に落ちてきて、目の奥の痛みが消えた。 野椎が頭をくりくりと蒼愛の顔に押し付けた。 いまいち、どこが頭だかわからないが、顔っぽい所にキスをする。「蒼愛、やめなさい。野椎だけど、それは伽耶乃様だから。伽耶乃様にキスしているのと同じだからね」 紅優に腕を掴まれて、そういえばと思った。「そっか、可愛いから、うっかりしちゃった。伽耶乃様、ごめんなさい」 小さくぺこりとしたら、野椎の方から蒼愛の唇に頭をくっ付けた。「今のは、わざとかな。わざとだったら、元に戻ってからちゃんと抗議しますからね」 紅優が野椎に凄んでいる。 蒼愛は野椎を腕に抱いた。「大丈夫だよ、今は野椎だよ。どこが口かわからないし、きっとキスじゃないよ」 蒼愛に頬擦りする野椎を何となく淤加美が眺めている。「私も竜の姿

  • 『からくり紅万華鏡』—餌として売られた先で溺愛された結果、この国の神様になりました—   51.創世の惟神クイナ④

    「番になると、妖怪は食事が必要なくなる。それって、とっても大事な気がするんです。クイナがどんな気持ちでこの国を作ったのか、色彩の宝石を作ったのかわかれば、人間と妖怪はもっと、今より良い関係になれるんじゃないかって、思って」 自分の中に在る考えや思いを上手く言葉に出来なくて、もどかしい。 顔を上げたら、月詠見に頭を撫でられた。「そうか、そうか。蒼愛はやっぱり賢いな。賢いし、優しいね。どうして蒼愛が色彩の宝石なのか、わかった気がするよ」 賢いという言葉の後には、決まって不穏な言葉が続くのに、今日の月詠見の言葉は全部優しかった。

  • 『からくり紅万華鏡』—餌として売られた先で溺愛された結果、この国の神様になりました—   50.創世の惟神クイナ③

    「妖怪もね、瑞穂国から出るのは自由だよ。現世側から入るには許可が必要だから、出る前に黒曜に通行手形を申請するんだ。:幽世(こちら)側から行く分にはそれ以外の縛りはないよ。現世側から入るのは、難しいけどね」 紅優の説明に、蒼愛は首を捻った。 現世側から瑞穂国に入っても、人間にメリットはない。 瘴気に中てられて死ぬか、妖怪に喰われて死ぬ。「現世から瑞穂国に移り住みたい妖怪がいたら、どうするの?」「その手のコンタクトを取る窓口が黒曜なんだよ。瑞穂国に入る妖怪や人間を調節している。それもまた、均衡を守るために必要な役割だね」

  • 『からくり紅万華鏡』—餌として売られた先で溺愛された結果、この国の神様になりました—   48.創世の惟神クイナ①

     ケーキを食べてひとしきり楽しんだあとは、地図を広げての授業になった。 瑞穂国を知らない蒼愛へ、神様たちが色々教えてくれるらしい。 淤加美が広げてくれた地図は紅優が見せてくれたものより大きく、古いように感じた。「まずは瑞穂国の地形について教えよう。この国の地図を見るのは、初めてかい?」「月詠見様と日美子様の宮に行く前に、紅優が見せてくれて、説明してくれました」 大雑把な国の全体図と、神様の宮の場所は聞いた。 明るくて広い町や城がある場所の上空に日ノ宮があったり、暗がりの上に暗ノ宮があったりと、神々の宮の下の大

  • 『からくり紅万華鏡』—餌として売られた先で溺愛された結果、この国の神様になりました—   47.クリスマスケーキ②

    「止めないのかい?」 後ろで小さく聞いた日美子に、紅優が息を吐いた。「蒼愛が嬉しそうなので。こんな風に大勢でクリスマスケーキを食べるなんて、蒼愛は経験がないでしょうから。淤加美様も思った以上に子供っぽい仕草をしているので、見逃します」 紅優が堂々と言ってのけて、日美子が笑った。「蒼愛はもう少し、子供でいた方がいいね。子供じゃないと出来ない経験を、もっとたくさんした方がいい」「じゃぁ、これも子供の特権だ。現世ではクリスマスにプレゼントとか、あげるんだよね」 月詠見が大きな包みを蒼愛に手渡した。

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